この記事の要点
  • 食肉卸では枝肉から部分肉への加工工程で平均 約 25% (重量) が骨・脂・スジに分かれてロスまたは副生品 に回る (農水省 畜産物流通調査 / 業界一般値)。この内訳が指示と実績で日常的にズレる。
  • 既製の販売管理 / 在庫管理システムは 「商品 1 件 = 1 行」のフラットな構造 で作られているため、枝肉 1 体から 9 部位 + 12 種の内臓 + 副生品が出る食肉の加工フローを正しく扱えない。
  • 解決の核は、加工指示書を変えるのではなく、指示と実績のズレを画面 1 枚で日次に並べて吸収する設計。既存の伝票・Excel 集計を起点に、業務手順への変更を最小限に抑えて始められる。

「先月の歩留まりは指示通りなんですけど、計算したら 70% を切る日と 80% を超える日が混じっていて、月締めで合わせて『標準範囲です』としているんです」── 食肉卸の経営者から、こうした声をよく伺います。月締めでは見えていても、日次の指示と実績のズレが 原価計算・在庫評価・廃棄ロス を歪めているケースは少なくありません。

この記事では、最新の業界データで歩留まりの構造を確認した上で、食肉卸の現場で「加工指示と実績のズレを業務手順への変更を最小限に抑えて画面化する」実践的な方法を解説します。

数字で見る、食肉卸の歩留まりとロス

まず、外部環境の数字を確認しておきます。

これらの数字が示すのは、食肉卸の事業は 「1 体 1 商品ではなく、1 体 = 20〜30 アイテムへの分配」 という構造です。既製の販売管理 / 在庫管理システムは「商品 1 件 = 1 行」のフラット構造で設計されているため、この多分配構造を正しく扱えません。

業種別シナリオ ── 歩留まり管理が回らない理由

シナリオ 1: 牛肉卸 (A5 和牛を扱う中小卸)

1 体 500kg の枝肉から、ロース系・モモ系・バラ系・スネ系などに分配。部位別の単価差は 10 倍以上 (例: シャトーブリアン 1 万円台/kg、スネ 1000 円前後/kg) のため、配分ミスが原価計算に直撃します。指示書では「ロース 50kg、モモ 80kg…」と書かれていても、加工担当の判断で 「今日はこの肩ロースは霜降りがきれいだからシャトーブリアン側に振った」 といった日次の微調整が常に発生し、Excel 集計では追えなくなります。

シナリオ 2: 豚肉卸 (量販店向け中小卸)

1 体 80kg の枝肉から、ロース・バラ・モモ・スジ・ガラ等に分配。量販店の特売商品 (バラ薄切り、肩ロースブロック等) に合わせて 加工形態が毎日変わる。「火曜は B 社向けにバラ薄切り 100kg」「木曜は C 社向けに肩ロースブロック 50kg」のように、同じ部位が異なる規格に加工されるため、歩留まりの集計単位が日次・取引先別に異なります

シナリオ 3: 内臓肉卸 (ホルモン専門卸)

牛 1 体から得られる内臓は 12 種類、重量にして 30〜40kg 前後。ハツ・レバー・ハラミ・センマイ・シマチョウ・テッチャン等が個別の取引先・小売店に流れる。消費期限が 1〜3 日と非常に短い ため、廃棄管理と歩留まりが直結します。「今日入荷したハラミ 12kg のうち、3kg は加工で落ちた、5kg は A 社に納品、4kg は明日売り切る」── このような日次の動きを、紙伝票と複数の Excel で追っている現場が多数派です。

解決の核 ── 指示と実績のズレを画面で吸収する

食肉卸の歩留まり管理を仕組み化する最大のポイントは、加工指示書を作り直すことではなく、「指示と実績のズレを 1 画面に並べる」 ことです。

既存の指示書 (紙でも Excel でも) はそのまま残し、画面側では:

この構造により、月締めではなく日次で「今日の歩留まりは 73% でした (標準 75%)。差分は 2kg、副生品計上漏れの可能性」のように すぐに切り分けられる状態 になります。

既製品で足りない理由

市販の販売管理・在庫管理システムが食肉卸で使われない (あるいは Excel 並走になる) 構造的な理由は 3 つあります。

取り組み方の 3 ステップ

  1. 現状観察 (1 営業日): 加工場で 1 日同行し、指示書・実績メモ・Excel 集計のサイクルを観察。「今日の指示と実績の差分は誰がいつ書いているか」を特定。
  2. 画面ラフ提示 (2 週間): 枝肉 1 体 + 加工実績の親子関係を表現する画面ラフを 3〜5 枚で提案。現場担当者と確認し、入力負担が今より増えないことを確認 (既存の伝票・Excel から数字を写すだけで成立する設計が望ましい)。
  3. 1 ロット試験運用 (1 ヶ月): 全在庫を移行せず、特定の枝肉ロット (例: 牛 A5、5 体 / 月) だけで画面入力を試す。歩留まりと副生品計上が日次で見えるようになるまでの導入摩擦を計測。

まとめ

食肉卸の歩留まり管理の本質は、加工担当者の技術や指示書の精度ではなく、「1 体から多品目に分配される構造を、既製品が前提とする 1 対 1 構造に押し込もうとしている」 ことに無理がある点にあります。指示書を変えるのではなく、業務手順への変更を最小限に抑えながら、指示と実績の差分が日次で見える画面を 1 枚追加する ── これが、食肉卸の現場で運用が続く解です。

引用元

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